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「準性的サービス」とビルトイン・アファーマティブアクション

アファーマティブ・アクションという考え方があります。基本的に、社会における資源(人に効用を与える色々なもの)の分配は、自由競争に基づいた合意によって決定されます*1。しかし、特定の競争において、明らかに不利と考えられる属性の人々がいるとき、その属性を有する人々に通常とは異なる有利なルールを適用することで、競争の結果をより平等なものにしよう、というのがアファーマティブ・アクションです。貧困率が高く教育水準の低い黒人に対して一流大学が「黒人枠」を評価するといった例が典型的です。

さて、このアファーマティブ・アクションですが、性別についても「男性のほうが様々な場面で有利な状況に置かれているため、女性に対するアファーマティブ・アクションが必要だ」という主張が国際的に多勢を占めています。日本は伝統的に国際連合とアメリカの圧力に弱い国ですが、その国連も毎年のように日本に「改革」を迫っています。

上記の記事によると、具体的には、以下のような「改革」が求められています。

  1. 夫婦別姓の承認
  2. 再婚禁止期間の廃止
  3. 雇用差別の改善・職場におけるセクハラの予防措置
  4. 指導的地位*2を占める女性を20年までに30%以上にすること

しかし、国際機関が女子差別撤廃を叫ぶ一方、日本は世界一「女性のほうが幸福な(幸福度の男女格差が大きい)」国であることがわかっています。

その理由は職業の分配にあります。所得による幸福度が個人所得ではなく世帯所得によって決定され、1世帯には同じ世帯所得の男女が1人ずついるため世帯所得を原因とする幸福度の格差が開きにくい一方で、職業に由来する幸福度は同一世帯でも夫婦間で別の職業に就いている場合が多く、さらに妻の職業が専業主婦であることが少なくありません。そして、男性に多いブルーカラーの職業は軒並み幸福度が低く、専業主婦の幸福度はあらゆる職業と比較しても最高水準にあるため、結果として女性のほうが高い幸福度を享受する結果になっています。

しかし、そもそもなぜ、専業主婦は高い幸福度を享受することができるのでしょうか。直感的な原因としては、労働者のように上長の監視下に置かれていないこと、子供や地域社会とのコミュニケーションの機会に恵まれていること、時間に裁量・余裕があることなどが考えられますが、真の問題は、なぜ専業主婦がそういう職業になり得たか、ということです。なぜ世の亭主たちは、財布を妻に預け、お小遣い制に甘んじるのでしょうか?また、なぜ妻の要望する生活家電を気前よく購入するのでしょうか?

また、世間では同じ賃金でも、肉体的負荷を伴う仕事や長時間の残業は、男性が負担するのが一般的です。また、ブルーカラーを中心とする幸福度の低い仕事も、機械化が進んだ現代では女性も十分職責を果たすことができる場合がほとんどです。それなのに男性ばかりが低賃金・低幸福度の職業に向かうのは、男性も合理的に行動することを踏まえれば「より高い賃金・幸福度の職業に就けなかったから」と考えるのが自然ですが、その原因はどこにあるのでしょうか。

他にも、若者のデートでは男性が女性におごることが一般的であったり、人気アイドルグループとわずか一瞬握手する権利に数千円の価格がついたりと、世間には一見して理解しがたい「男性から女性への支払い」が数多く存在します。今回は、それを「準性的サービス」という概念を導入することで考察していきたいと思います。

「準性的サービス」とは何か

著名なマズロー欲求段階説によれば、人間の欲求は以下のような階層に分けて捉えることができます。

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一般的な財・サービスの市場で取引されるものは、ほとんど全てが第一・第二の段階にあたる生理的・安全欲求を満たすためのものです。人生でもっとも高価な買い物は住宅であるといいますが、住宅は原始の昔より安全のために必要とされるものでした。近代社会に特有の現象として黄金欲*3が挙げられますが、これも第一・第二の欲求を安定的に満たすための保険として説明することができます。

それ以上の欲求についても市場で購入できる場合があります。経済学者のヴェブレンは「顕示的消費」という概念を提唱しましたが、これは高価な商品の使用価値がより低価格なものとほとんど変わらないにもかかわらず売れることを、他者よりも優越していることを示す目的があるとして説明したものです。

「準性的サービス」とは、第三段階にあたる社会的欲求のうち"Sexual Initimacy"、すなわち「性的親密感」を提供するサービスのことです。さらに、生殖の機会を予感させることで生理的欲求である「性欲」も同時に満たすことができます。したがって「準性的サービス」とは性欲と社会的欲求が入り交じった非常に複雑な欲求を充足させるサービスであり、「生殖にまったく繋がらない」が「供給者が異性であることを要求する」サービスがこれに含まれます。

酸っぱい香りだけで人が唾液を分泌するのと同じように、異性との接触は生殖の機会を予感さえ、一定の情緒的な効用を与えることができます。さらに、異性同性を問わず他者と接触するということ自体が広汎な社会的欲求を充足します。「子作り」に繋がらないにもかかわらず、セクハラ("おさわり"など)が男性に満足感を与えるのもこのためです。

つまり、異性同士の接触は、有償であれ無償であれ、何らかの「準性的サービス」を構成しているということができます。また、準性的サービスは消費者が勝手に性的親密感を感じるために発生するものですから、供給者にとって意識的な労働ではないということも大きな特徴です。

「準性的サービス」の効用における性差

そこに男女がいれば既に準性的サービスが発生しているため、マクドナルドやスターバックスのレジでもそれは日常的に観察できる、ということになります。しかし、準性的サービスに対する効用の感じ方には、男女間で大きな格差が存在することがわかっています。

「恋愛工学」で著名な藤沢数奇氏も、女性への聞き取り調査の結果について以下のように述べています。

—どのようなリサーチですか?

藤沢 まずは、個人的に仲良くなった女性たちに、地道にインタビューしたのです。すると驚くことがわかりました。多くの女性は、日本のSMAPぐらいを基準にして、イケメン、フツメン、ブサメンのスペクトラムを形成しているということです。彼女たちは、キムタクはイケメン、慎吾ちゃん、吾郎ちゃんあたりはフツメンとイケメンの間ぐらい、中居くんはフツメンで、草彅くんはブサメンに近いって言うんですよ! SMAPの中の下ぐらいが「ふつう」の基準になっているんです!

 

—草彅くんがブサメンに近い!?

藤沢 それで僕は驚いたわけです。もしここにふつうの高校のクラスがあって、草彅くんがいたら、間違いなくトップ5%には入りますよね。スタイルも振る舞いも素敵だし。30人男子がいたら、2番目か3番目は確実に行けると思うんですよ。ふつうに考えて。

 

—草彅くんはふつうにイケメンですよ。

藤沢 ですよね。どう考えても、偏差値60は軽く超えてるんです。もし、日本人女性の相手のルックスを判断する基準で、本当に草彅くんがフツメンにもなれないとしたら、偏差値65ぐらいでようやくフツメンなわけですよ。

 

—どれだけ基準が高いのか……。

cakes.mu

このように、女性が男性の行為に対して効用を感じることができるのは、供給者がごく上位の男性である場合に限られます。一方、男性は生物的な理由から、女性から供給される準性的サービスであればほとんど必ず効用を得ることができます。

哺乳類のオスの生殖にかける時間は、理論上は3分でも足りますし、多くの場合、生殖行為で命に危険が及ぶことはありません。こちらは『ばらまいたもん勝ち』で、『複数の女性と関係を持つ』ことは、自分の遺伝子を多く残せることにつながるので、男性の動物本能にとって好ましい事態。そのため自慢ポイントになるのです。

つまり、いかに時間を掛けずに多くの女性に自分の遺伝子をばらまくかが、男性の動物本能として大切だからこそ『量』を重んじるのです。そして、その女性を口説き落とす『コスト』や『期間』が短ければ短いほど『効率的』ですから、そのことを男性は鼻にかけるのです

(感性アナリスト・黒川伊保子さん)

www.tokiomonsta.tv

同性に対しては性的親密感を与えることはできないので、そこで発生する価値はサービスそのものの効用のみとなります。ただい、一般的に女性は男性に対して警戒感を覚える傾向があるので、女性の消費者に対する効用は(ごく一部のイケメン以外の)一般男性よりも一般女性のほうが高いかもしれません。

かくして、消費者の男女比が等しいと仮定した場合の対人・接客業においては、同等のサービスであっても男性が供給するより女性が供給した方が、消費者に与える効用の平均値が大きくなるのです。

産業のサービス化

さて、現代の日本においては、すでに指摘され尽くしたことではありますが、第一次・第二次産業が海外に移動するなどの理由で、第三次産業(流通・販売・サービス)に雇用が集中しつつあります。

f:id:nyaku37:20160515230218j:plainかつては30%強にすぎなかった第三次産業の就業者数が、既に7割を超えています*4。これは、はじめて仕事探す人がいざ職安に足を運び求人票を見回すと、その7割がサービス業のものであるということを意味します*5

 

第一次産業第二次産業においては、生産者が誰であろうと商品の質は変化しないため、性差が問題になることはなく、土地の豊かさや生産設備の技術水準が問題になりました。むしろ、体力的に屈強である男性に相対的優位があったといえます。しかし、人そのものが商品である第三次産業においては、上記の理由によって同じサービスであっても女性のほうが高い価値を提供できるため、より楽で賃金の高い仕事に就きやすくなります。すると必然的に、苦しく、賃金の低い仕事を男性が負担することになります。

また、同じ賃金であれば、女性が無自覚のうちにより多い準性的サービスを提供している分、男性はそれを埋め合わせる分の労働を追加で負担する必要があります*6。それが残業や高負荷作業の偏りにつながっているのではないでしょうか。

さらに、男性が食事代を負担するという一般的な習慣についても、男女が食事をするということが一般的に女性から男性への準性的サービスの供給となっており、男性はその対価を支払う必要がある*7と説明することができます。

このように、(とりわけ若く美人の)女性であればいかなる対人行為においても準性的サービスを提供できることから、同じ所得を得るために必要な労働は男性よりも少なく、男性と同じだけ労働をすればより高い賃金が手に入るということが見込まれます。

社会には、女性に対するアファーマティブ・アクションが組み込まれている、すなわち「ビルトイン」されているのではないでしょうか。その正体は男の「下心」に他ならないのですが、それが人間の一般的な性向であるならば、無視したり盲目的に否定したりするのではなく、それを前提とした制度設計が必要であることはいうまでもありません。

*1:イメージとしては、商人が好きな場所で好きなものを販売し、買い手が好きな値段を付け、商人が合意した場合に取引が行われる、というイメージで大丈夫です。大学のそれぞれのアドミッション・ポリシーを掲げ、それに応じて名乗り出た受験者を、任意の基準で合格させて、受験者が合意した場合のみ入学が許可されます

*2:国会議員や企業の管理職など

*3:直接の使用価値がない黄金=貨幣をひたすら貯蓄することを求める人間の性向

*4:グラフからは切れていますが、2010年の時点で71%にまで至っています

*5:農業や漁業に就職する機会は少ないため、特に都市ではもっと高く出るかもしれません

*6:そうでなければ、雇用主にとっては女性と同程度にしか働かない男性を解雇し、見目よい女性を雇用した方が合理的になります

*7:支払わなければ女性は他の男性と食事をする