「女性の社会進出」は「女性の幸福」ではない―職業分配から読み解く男女の幸福の源泉

日本を"ジェンダー平等後進国"として批判するとき、最もよく使われる根拠はWorld Economic Forumによる世界男女格差指数(Global Gender Gap Index)だろう。この指数は、以下の要素を勘案して算出されているという。

  • 経済活動の参加機会
  • 教育機会
  • 政治的影響力
  • 健康

2015年の結果では、日本は135カ国中101位をマークした。よく言われているように、G7では最低のスコアである。ただし、日本は国連の影響力のもとで、1947年憲法による男女同権の規定に始まり、72年の男女雇用機会均等法、79年の女子差別撤廃条約、そして99年の男女共同参画社会推進基本法と、着実に男女平等政策を進めている。それなのになぜランキングが上がらないかというと、「日本は良くなっているが、他国はより速くよくなっているから」だという*1

では、日本は女性の社会進出が遅れているため、女性が差別・抑圧されているという命題は事実だろうか。

このブログで詳しく紹介されているが、世界価値観調査(World Value Survey)によれば、日本は世界でも最も男女の幸福度の格差が大きい、女性にとって天国と言っても差し支えないような状態であることが伺える。

世界価値観値調査(2010)では、「非常に幸せ」および「やや幸せ」と回答した女性は90.4%、男性は82.2%と、8.2ポイント女性の方が高い。

内閣府男女共同参画白書の調査(2010)でもこの傾向は同様で、現在幸せである」と回答したのは女性が34.8%なのに対して、男性は28.1%だ。

しかし、この話にはウラがある。女性の幸福度が高いのは、「幸福な人に女性が多いから」というようり、正確には「不幸な人に女性が少ないから」である。

予め述べておくが、「男女で幸福の感じ方が違うため、悲観的な男性が勝手に不幸を感じている」という主張はナンセンスかつ差別的である。Mahon.NEの研究によれば、男女間において幸福を感じる要因やその程度に差は見られない*2。また、そのロジックでは、ウルグアイやトルコといった「男性の方が幸せな」国が少なからず存在することが説明できないだろう。

f:id:nyaku37:20160224113223p:plain

同じデータだが、男女ではなく幸福であるか否かを主軸に取ってみると、幸福な人の比率は男女でほぼ平等*3だが、不幸な人の比率は大きく偏っている。日頃不満を抱えながら暮らしている人の約70%が男性なのだ。

そもそも、人々の幸福度はいかなる要因によって決定されるのだろうか。内閣府の調査によれば、*4中でも影響が大きいのは以下の要因だ。

  1. 世帯収入
  2. 職業・就労形態
  3. 健康

である。注意すべきなのは、個人の所得はほとんど幸福度に影響を与えないということだ。考えてみれば自然なことだが、個人の生活水準は世帯構成員の個人所得の総和、世帯収入によって決まる(ゆえに、所得がゼロの富裕層の子供であっても貧困家庭の子供より高い生活水準が享受できる)。一人世帯の場合も個人所得=世帯収入になるため同じことだ。

さて、このうち男女で開きがあるのは、やはり職業や就労形態だろう。世帯は男女によって構成されるものであり、子供もマクロで見ればほぼ男女半々になるため統計的意味を持たない。健康については、最後に少しだけ触れてみよう。

さて、職業が幸福度に影響を与えるとするなら、世の中には不幸な職業と幸福な職業があるということになる。この点について、大阪大学「くらしの好みと満足度についてのアンケート」を実施しており、厚労省の定義する職業分類に基づいた幸福度の統計を得ている。ただし、このデータは研究者向けにしか公開されていない。そのため、精度は低くなってしまうが、大阪大学のデータを利用して執筆された論文*5を参照し、かろうじて職業を『幸福度の高い』『普通』『低い』の三段階に分類した。

f:id:nyaku37:20160224115349p:plain

Clerksは事務員、Managersは管理職、Professionalsは弁護士や医師を中心とした専門職を指している。いわゆるブルーカラー労働者がみな最下層に集中していることがわかるだろう。これらのブルーカラーの中で女性が多そうなのはケアワーカー、つまり看護婦や介護士くらいのものだが、これらの職業は結婚退職を前提としており、毎年の新規就労者も多い代わりに退職者も多いことがわかっている。以下のブログが参考になるだろう。

大阪大学の調査ではG1に含まれる職業の中でもどれがもっとも幸福であるかはわからないが、驚くべきことに、みずほ総合研究所による別の幸福度調査*6によれば、日本において最も幸福度の高い職業は専業主婦であるという。家事労働をGDPに計上せよと主張するフェミニスト、すなわち少数のエリートの女性にとっては家事労働はたいへんな労苦かもしれないが、実際に家事労働をもっぱら行っている女性は、他のどんな労働者にも増してその地位に満足を覚えているのである。

だが、幸福度の高い専業主婦層に対抗するかのように、男性にも高度専門職や管理職、企業家といった職業が残されている。以下のグラフをご参照願いたい。幸福度の高いG1の占有は女性優位だが、その開きは62%:48%である。また、幸福度が平均的なG2はほぼ男女半々で占められており、G1における幸福度の開きをある程度中和していると思われる。その結果として、冒頭に述べたとおり、幸福度の高い人口の占有率はほぼ男女半々となっているのだろう。

しかし、幸福度の低い人口は、男性が66%、女性が34%と開きが大きい。不幸な職業で糊口をしのいでいる人々に占める男性の割合が、やはり不幸な人々にしめる男性の割合にそのまま反映されているというべきだろう。

f:id:nyaku37:20160224115333p:plain

また、いわゆる幸福な人々の特徴として、「扶養されている」(生活のために働く必要がない)、あるいは「裁量的である」(自分の裁量で処分できる時間が多い)ことの二点が指摘できるだろう。
学生の幸福度が高く、失業者の幸福度が低いのはそのためである。扶養されている場合は労働の必要量が少ないことから、当然裁量も手に入るため、論理的には「扶養されている」∨(「裁量的である」∧「十分な所得がある」)と定式化できる。こうした幸福な属性を持つ人々の人口比率を図示したものがこちらだ。

f:id:nyaku37:20160224121052p:plain

「女性の天国」という形容があながち誤りではないことがわかる。また、そもそも職業や生活基盤がない人の分布の偏りも、男性の幸福度を押し下げているだろう。ホームレスの男女比は2014年で6040対206であり、ほぼ97%が男性である。また、2010年の自殺者の70%が男性である。

f:id:nyaku37:20160224121308p:plain

さらに、健康という点にも関係してくるところだが、労働災害の件数も(当然ながら)G3の職業において圧倒的に多い*7

つまり、男女平等指数が101位であろうと、日本は明らかに女性が幸せな――社会のうちで誰かが負担せねばならない、嫌で苦しい仕事から解放されている国なのだ。さらに、女性の高い幸福度を支えている巨大な層が、就労が期待できる年齢層の女性の33%を労働から遠ざけている専業主婦という存在だという事実は無視することができない。いわゆるM字カーブ、男女平等の遅れの象徴とされている女性の低い労働力率こそが、日本における女性の幸福の源泉なのである。

フェミニズムにおいて、家事労働は労働に対して賃金が支払われていない奴隷のような状態(アンペイド・ワーク)と看做されており、支払われる労賃こそがその人の価値や幸福を決めていると断定されている。男女の個人所得の格差が問題となるのはそのためだ。

ところが、実際には労働をまったくしていない専業主婦や学生こそがもっとも幸福な生活を謳歌しているのだ。つまり、「女性の社会進出」と「女性の幸福」はまったく別の概念であるどころか、むしろ相反する概念というべきであり、フェミニズムは幸福を希求する女性にとっても、安易に加担すべき政治的立場とはいえないのだ。
その証左として、男女平等がもっとも進んでいるという北欧のスウェーデンも、少しばかり女性優位とはいえ日本よりは全然男女格差が小さい。また、アメリカ合衆国は幸福度においてほぼ完全な男女平等を達成している。むしろ、女性があらゆる面で抑圧されている(とされている)ヨルダンパレスチナといったイスラム圏、男女平等指数が日本よりも低い韓国といった国々こそが、日本と同じように「女性のほうが幸せな」国であることが判明しているのだ。

図録▽幸福度の男女差(推移と国際比較)

女性の社会進出が必要であると誰かが口にする時、そこには「社会進出こそが幸福をもたらす」というプリミティブな前提が働いている。人の行動原理は、多くの場合好ましい物を近づけ、好ましくないものを遠ざけることにあるからだ*8。しかし、社会進出=労働参加や諸国の文化・価値観、その他個人が知覚しうる様々な要素を総和したものとしての幸福度を見てみれば、明らかにその前提が誤っているということがわかる。

幸福や生きがいは、個々人に支払われる金銭的対価によって測られるものとは限らない。だから、性別間における所得の平等と幸福度や満足の平等は、まったく別の問題として検討する必要がある。安易に「女性の社会進出」を支持する前に、何が人々に本来の意味における幸福をもたらすか、立ち止まって考えてみるべきだろう*9

 

*1:SEOK, Hyang. "The History Research for the Change of Women' Policy in Japan and the Gender-Backlash." Thesis. Ritsumeikan University, 2014. Print.

*2:Mahon, N. E. "Happiness as Related to Gender and Health in Early Adolescents." Clinical Nursing Research 14.2 (2005): 175-90.

*3:2%女性に多いとはいえ

*4:Watabe, Ryoichi, and Shiho Kawano. 25年度「生活の質に関する調査(世帯調査:訪問留置法)」の結果について.

*5:Arami, Yoko. 人々の生活の質をどう把握するべきか?. Asian Growth Research Institute, 2015. Kitakyushu: Asian Growth Research Institute, 2015. Working Paper Series. Web. 28 Jan. 2016.

*6:Tsuji, Takashi. 日本人の幸福の源泉を探る. Working paper. Tokyo: Mizuho Research Institute, 2011. Print.

*7:労災統計においては、職業別の事故件数は発表されているが男女別のそれは発表されていない。

*8:「不幸になるのは承知だが、社会進出は幸福であるか否かに拘らず善なので推進すべき」という立場もある。「新自由主義」と呼ばれている思想がそれにあたる

*9:筆者個人の見解としては幸福度の平等などまったくナンセンスであり、新自由主義に回収される消費者としての生でしかないと考えているが、今回はそちら側の土俵に登って考察を試みた