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「着せ替え」ができる世界

Politics

シリアなどの中東地域からドイツに渡った「難民たち」の第一弾がようやくドイツに到着した、らしい。

www3.nhk.or.jp

有史以来、人類はほぼ民族ごとに国家を形成して、一蓮托生の仲間として歴史を綴ってきたはずが、危機にあってはこうも迅速かつ大量に、祖国を放棄して出て行ってしまうのだろうか――あっけない。
 
とはいえ、経済が崩壊し、左は反政府軍、右はイスラム国、といった状態なら、それも無理からぬことかもしれない。しかし、前掲のニュースによれば、先月までに流入した移民のうち、「内戦が続くシリア」からの難民は4分の1に過ぎなかったそうだ。ドイツ人男性の、「紛争地からの難民は助けるべきだが、厳密に見ればドイツに来ている人の9割の人は該当しないはずだ」という声も聞き捨てならない。残る4分の3はいったい、どこから来たのだろう。外務省の海外安全情報によれば、中東で退避勧告が出されている国は、シリアとイラクだけだ。イラクならNHKニュースもイラクだと書くだろうから、それ以外の比較的安全な国から来たと考えるのが自然だろう。
 
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貧しい祖国から、より豊かな異国へ。人間の性かもしれないが、真っ先に携帯電話のMNPを想起してしまった。
移民には「2年縛り」はあるのだろうか?
各国が経済や福祉の快適性を競い、消費者たる移民たちが目ざとく比較検討し、絶え間なくMNPを繰り返す。読売だったか朝日だったか覚えていないが、数日前、カメラに向かって白い歯を見せながらピースサインをする「難民」たちの写真を見た。小生が思うよりは気楽な旅なのだな、と思った。
  
MNPが普及するにつれて、「既存顧客を軽視している」「釣った魚に餌はやらない」といった批判も噴出した。「人間のMNP」にも、同じことが言えるかもしれない。ドイツは既に難民対策に1兆円以上を費す方針を固め、他のEU諸国にも「公平な負担」を求めていく方針だが、ドイツ国内はともかく、EUという枠組みでウチ、ソトを考えてみると、どうだろう。ギリシャ2200億円が返せないためにあわやデフォルトの大騒ぎをしたが、ドイツは最後まで冷淡だった。スペインも20%を超える異常な失業率をキープしている。EU外ではあるが、モルドバ銀行が1300億円を紛失して数十万の国民がテンヤワンヤだ。「欧州統合」を謳うわりには、身内には少し厳しめのようだ。
  
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ひょっとすると、移民の自由化によって、世界から戦争はなくなるかもしれない。戦争が始まり次第、さっさと退去して隣国へMNPすれば解決するからだ。民族単位の対立がくすぶっても、とりあえず他の民族へMNP。少なくともドイツは、それを受け入れる寛容さを持っている。
日本では安保法制を巡って、次世代の子供たちのためにと多くの人が議論を重ねているが、もうそんな必要はないのかもしれない。
  
しかし、それは一方で、我々のいかなる遺産も、子孫がMNPしてしまえば放棄されてしまう、ということを意味する。ちょうどドコモを解約したら、ドコモポイントが消滅するのと同じように。
家名のためにと精進しても、子孫が自由気ままにMNPしてしまうのでは、あまり意味がない。先祖代々の畑を豊かに耕しても、震災が起こればMNPされてしまうのでは、やはり意味がない。水源や森林だって、使えなくなったらMNPするのであれば、いくら廃液を流したって構わない。
国家、民族だけでなく家族という仲間集団さえ、科学技術によって生命の製造が可能なご時世、新規契約、機種変更、MNPと一通り可能になるかもしれない。あ、そういえば今度総裁選に出るという野田聖子議員も、子供を「造った」経験があるという。
「政治家は国民を映す鏡だ」というから、きっとその日も近いのだろう。
  
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スマホのケースと同じように、あらゆる属性が「着せ替え」が可能な現代。もしかすると、これからの人類はより近視眼的に、目先の快楽を追って生きることを覚えるかもしれない。
賽は、投げられた。